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語学はいつ始めても遅くない
私の授業には、大人になって英会話に再チャレンジしようと決意した人たちもやって来ます。
目的は仕事や海外旅行などで会話に困らないようになりたい、ということらしいですが、
新しい経験をしてみたい、もう周囲に気兼ねなどしないで生きてみたいという思いも感じとれます。
七十二歳でフランス語を習いに来ている女性がいますが、
「五十年前に大学でフランス語を勉強したんですが、すっかり忘れてしまいまして。
さび落しをしたいんです」 と月に三回のレッスンをこなしています。
「わたくしには時間がございませんから」 と言う彼女は、レッスンごとに三課ずつ進み、
自宅でトレーニング問題や応用問題などを必ず解いてきます。
ただ何となく語学をやっている二十代の若者たちのような甘えはありません。
プルーストを原書で読みたいと願う彼女の意欲は、他の生徒にも刺激を与え、私の心も引き締めます。
また、七十歳近い彫刻家の男性も、「英語を学ぶことは自分の人生における挑戦です」
と、二十年前から精力的に英語を勉強しています。
きっかけは、彼がニューヨークで開催された展覧会に作品を出品した時のこと。
彼の作品は好評で、当時のニューヨーク美術界の実力者に気に入られ、
彼のために開かれたパーティーでもたくさんの賛辞が浴びせられました。
しかし英語のできなかった彼は、ただ "Thank you. Thank you." を繰り返すしかなかったそうです。
自分の英語力に愕然とし、一念発起。帰国してから、週に三回英会話教室に通う、
家でも車の中でもラジオ英会話は欠かさず聞く、近所にアメリカ人がやって来ると
会いに行くなど、驚くような努力をしてきてきたのです。
その結果、当初は通訳が必要だったアメリカ人男性とも、三年後会った時は
普通に会話することができたそうです。
今彼は『TIME』誌を読み、日本的な発音の残る魅力的な英語を話しています。
じっくりゆっくり学んでいく彼らのような落ち着いた大人は、若い生徒たちのように
弾んだ会話はできないかもしれませんが、「右のページを見て下さい」 という私の言葉で、
左のページを必死に見ているような「無駄」 が一切ありません。
レッスンでは、飽きさせないこととプライドを尊重し、できるだけ教科書は中級、上級にまで進むようにします。
「地球の温暖化」、「買い物をした品物が欠陥品だった時の取り替え」、「Do it yourself」
などの文章を読ませ、意見を聞き、声に出して反復練習します。
それでも、必ず初級の教科書は持参してきてもらい、レッスンの終わりに
以前学んだ簡単な会話をいくつか音読練習し、もう一度暗記させています。
-----The plane's late.
-----Yes, it's very late.
-----Are they tired ?
-----No, they aren't tired at all. He's hungry and she's thirsty.
初級のテキストが本当に基礎であって、そこをしっかりやっておけば、
旅先や滞在先でも困らずにすむことがいずれわかるでしょう。
中級の終わりには仮定法も出てきますが、二、三十年以上前に勉強したことで
完全に忘れている人もいます。新たに学び直すわけですが、やはり大変そうです。
七十二歳の女性のレッスンも、知的な彼女を飽きさせないように、進む速度を他の生徒と
同じようにしていましたが、当初それはかなり負担だったということを後になって聞きました。
「年ですから、レッスン中に暗記をするのは無理だと一時は諦めかけました。
これはもうついていけないと思っていたのですが、半年過ぎたあたりから楽になってきました」
大人には大人の知識や理解力、判断力が備わっていますから、
語学を学習する上で遅すぎるということはないと思います。
"Practice makes perfect." は本当です。
どんなに難しくとも繰り返してやれば必ず理解できるようになると思います。
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